鱗粉
蘭郁二郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)邦《くに》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|様《よう》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+息」、311−4]《ほ》っと
−−

      一

 海浜都市、K――。
 そこは、この邦《くに》に於《お》ける最も華やかな、最も多彩な「夏」をもって知れている。
 まこと、K――町に、あの爽やかな「夏」の象徴であるむくむくと盛り上った雲の峰が立つと、一度にワーンと蜂の巣をつついたような活気が街に溢《あふ》れ、長い長い冬眠から覚めて、老《おい》も若きも、町民の面《おもて》には、一|様《よう》に、何《なに》となく「期待」が輝くのである。実際、この町の人々は、一ヶ年の商《あきない》を、たった二ヶ月の「夏」に済ませてしまうのであった。
 七月!
 既に藤の花も散り、あのじめじめとした悒鬱《ゆううつ》な梅雨が明けはなたれ、藤豆のぶら下った棚の下を、逞《たく》ましげな熊ン蜂がねむたげ
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