な羽音に乗って飛び交う……。
爽かにも、甘い七月の風――。
とどろに響く、遠い潮鳴り、磯の香――。
「さあ、夏だ――」
老舗《しにせ》の日除《ひよけ》は、埃《ほこり》を払い、ペンキの禿《は》げた喫茶店はせっせとお化粧をする――若い青年たちは、又、近く来るであろう別荘のお嬢さんに、その厚い胸板を膨らますのである。
海岸には、思い立ったように、葭簀張《よしずば》りのサンマアハウスだの、遊戯場だの、脱衣場だのが、どんどん建てられ、横文字の看板がかけられ、そして、シャワーの音が奔《ほとばし》る――。
ドガァーン。ドガァーン。
海岸開きの花火は、原色に澄切った蒼空《あおぞら》の中に、ぽかり、ぽかりと、夢のような一|塊《かたま》りずつの煙りを残して海面《うなも》に流れる。
――なんと華やかな海岸であろう。
まるで、別の世界に来たような、多彩な幕が切って落されるのだ。
紺碧《こんぺき》の海に対し、渚にはまるで毒茸《どくたけ》の園生《そのう》のように、強烈な色彩をもったシーショアパラソル、そして、テントが処《ところ》せまきまでにぶちまかれる。そこには、その園生の精のような溌剌《はつら
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