にしようとしたのであろう。
Z海岸で匕首を刺された少女の身許が解らなかったのも無理はなかった。彼女自身ですら、あわれにもその本名すら知らなかったらしいのだ――。
この全身をパフの香気《こうき》に叩きこめられた少女等――、蠱惑《こわく》する媚《び》と技術を知りながら、小学生にも劣る無智――。山鹿とはなんという恐ろしい教育をする男であろう。
鷺太郎は、山鹿に対する怒りが火のように全身を駛《はし》って、思わず隣室の山鹿のところにかけ寄った。
『おや――』
さっき、鍵をとるために洋服を剥《は》いだままにしておいたせいか、全身、蝶や蛾の鱗粉《りんぷん》があたったところは、まるで火の粉をあびたように、赤く腫《は》れ上《あが》り、火ぶくれのようになって、既に息絶えていた。
『山鹿は蝶に殺された――』
鷺太郎は、呟《つぶや》くようにいった。
少女たちも、自分等を猫のようにあつかった、山鹿の死体を、心地よげに見下ろしていた。
『嫌悪感――というもんは非道《ひど》いもんだな、鱗粉が触っただけで、皮膚が潰瘍《かいよう》する許《ばかり》か、心臓麻痺まで起すんですね』
春生がいうと、畔柳博士は、こ
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