っくり頷《うなず》いて、
『おや、臭いぞ……』
とドアーの方を見詰めた。すぐドアーは開けられた。
『あ、火事だ!』
どうしたことか、山鹿の別荘は火を出したと見えて、もうその地下室のドアーのところにまで、むせっぽい、きな臭い煙が巻込んで来ていた。
『あっ、あの婆だな――』
春生が飛出した。
『あわてるな――』
畔柳博士が呶鳴ったけれど、もう皆は先をあらそって、出口へ飛出して行った。
山鹿の死骸も、田母沢源助の戯《ざ》れ呆《ぼ》けて寝た体も、運び出す暇はなかった。
皆が飛出すと、一足違いに、ドッと梁《はり》が落ちて、金色《こんじき》の火の子が、パッと花火のように散った。火勢はいよいよ猛烈だった。
その仕掛花火よりも見事な、すさまじい火焔《かえん》の中に、あの数人の全裸体の美少女が、右往左往するさまは、まるでそれが火の精であるかのように、美しく彩られて、海浜都市のKの丘の上に、妖しい狂舞が続けられていた。
……燃々と燃えさかる炎は、三人の心に夫々《それぞれ》のかげをうつして、ゆらめいた。
『これでいいのだ……』
畔柳博士は、鷺太郎をかえり見て、そういった。その声は、火煙のた
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