なと顫《ふる》えはじめた。その眼は真赤に充血してぴょこんと飛出し、脣《くちびる》は葡萄《ぶどう》色になって、ぴくぴくぴくとひきつっていた。
 世の中に、こんなにまで凄まじい恐怖の色があろうか。相手が、あの可愛いい蝶々だというのに――。
 狭い箱の中から開放された二十匹に余る様々な蝶や蛾は、あたりの明るさに酔って、さっ[#「さっ」に傍点]と飛立ち、忽《たちま》ちのうちに部屋一杯ひらひら、ひらひらと飛びかいはじめた。そしてあたりが鏡だったせいか、まるで、この部屋一杯に蛾が無類に充満し、恰《あたか》も散りしきる桜花《おうか》のように、春の夢の国のように、美しき眺めであった。
 そして、余りのことに、ぐったりと倒れてしまった山鹿の周囲にも、まるでレビューのフィナーレを見るように散り、飛びしきっていた。
      ×
 三人は、その様子をしばらく見ていたが、もう山鹿が身動きもしないし、鍵はとってしまったのだから出られまいと、尚《なお》もその奥のドアーを開けて進んだ。
 その次の部屋も、前と同じつくりの二十坪ほどもあろうかと思われる部屋で、豪華な家具や寝台が置かれてあり、その上、度胆《どぎも》を
前へ 次へ
全62ページ中57ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング