を知られては三人とも二度と世の中におかえしする訳にはゆかんよ……ここで君達がどうなろうと、全然世間には漏れないんだからね……ふ、ふ、ふ』
 そう低い声でいうと、いつの間にか右手には、鈍く光る短銃《ピストル》が握られていた。
(あ、しまった!)
 三人とも、一瞬、歯を鳴らした。
『あ、蛾だ!』
 鷺太郎が、山鹿の肩を指して叫んだ。
『え』
 一寸、山鹿の体が崩れた、と鷺太郎の体が、砲弾のように飛びついたのと同時だった。
『畜生!』
 ごろん、と音がすると短銃《ピストル》が落ちた。畔柳博士はすくい取るように拾った。
『山鹿! 変な真似をするな』
 一挙に、又立場ががらりと逆になってしまった。まるで、それは西部活劇のような瞬間の出来事だった。
『馬鹿野郎――』
 春生の右手が、山鹿の頬に、ビーンと鳴った。そして、洋服を剥取《はぎと》ると、ドアーの鍵を出して改めた。
 鷺太郎は、この騒ぎに投出された「おみやげ」の箱を拾い上げると、
『山鹿、この上もないおみやげ[#「おみやげ」に傍点]だぞ……そら、蝶や蛾がうじゃうじゃいる――』
『あ、そ、それは……』
 山鹿の全身は紙のように白くなって、わなわ
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