ドアーが開けられると、
『あっ――』
思わず、三人とも異口同音に、低く呻《うめ》いた。そのなかは、まるで春のように明るく、暖かく、気のせいか、何か媚薬《びやく》のように甘い、馥郁《ふくいく》たる香気《こうき》すら漾《ただよ》っているのが感じられた。
然《しか》も、この別荘としては、その地下室は不相応に広いらしく、充分の間取りをもって、尚《なお》も奥へ続いているようであった。
その上、壁は四方とも美しい枠をもって鏡で貼られ、天井は全面が摺硝子《すりガラス》になっていて、白昼電燈が適当な柔かさをもって輝いてい、床には、ふかふかと足を吸込む豪奢《ごうしゃ》な絨毯《じゅうたん》が敷きつめられてあった。
それらの様子を、三人が呆然《ぼうぜん》と見詰め、見廻わしている中《うち》に、山鹿はそのドアーを閉め、それを背にして向き直った。
ああ、その顔は、いつもの皮肉な皺《しわ》が深々と刻込《きざみこ》まれ、悪鬼のように歪《ゆが》んでいた。
『ふ、ふ、ふ、とうとう捕まったね……この地下室を見つけられたのは大出来だったが、のこのこ這入《はい》って来るとは、飛んで火に入る――のたとえだね、まあ、ここ
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