八畳ほどだった。椅子につくと間もなく、畔柳博士は、
『山鹿さん、地下室をみせてくれませんか』
『えッ』
山鹿は何故《なぜ》かさっ[#「さっ」に傍点]と顔色を変えた。
鷺太郎も吃驚《びっくり》した。このはじめて来る他人の家に、地下室があろうなんて、畔柳博士はどうして知っているのであろう。それにしても、山鹿の驚愕《きょうがく》は何を意味するのか――。
山鹿は顔色を変えたまま、よろめくように立上った。
『どうぞ、こちらです』
そう呟《つぶや》くようにいって、壁に手を支えながら歩き出した。
その、うしろ姿の波打つような肩の呼吸から、何事か、この一言がひどく彼の胸を抉《えぐ》ったことを物語っていた。
――その地下室への入口は、想像も出来ぬほど巧みに、彼の書斎の壁に設けられてあった。地下室のことについては、博士は『出入《でいり》の商人から人数に合わぬ食糧を買い込んでいるからさ――』こともなげに答えた。
山鹿を先頭に、三人は黙々と並んで這入った[#「這入った」は底本では「這った」]。そこは、いかにも地下室らしい真暗なつめたい階段が十四、五段あって、又、も一つのドアーに突当った。
その
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