く忘れられたようなサナトリウムの生活を送っていた彼は、一瞬、その強烈な雰囲気に酔うたのか、くらくらっと目の眩暈《くら》むのを覚えたほどであった。
長い間の、うるさい着物から開放された少女たちの肢体がこんなにまで逞《たくま》しくも、のびのびとしているのか、ということは、こと新らしく鷺太郎の眼を奪った。
なんという見事な四肢であろう。まだ陽に焼けぬ、白絹《しらぎぬ》のようなクリーム色、或《あるい》は早くも小麦色に焼けたもの、それらの皮膚は、弾々《だんだん》とした健康を含んで、しなやかに伸び、羚羊《かもしか》のように躍動していた。そして又、ぴったりと身についた水着からは、滾《こぼ》れるような魅惑の線が、すべり落ちている……。
或は笑いさざめき乍《なが》ら、或は高く小手をかざしながら、ぽかんと佇立《つった》った鷺太郎の前を馳抜《かけぬ》ける時の、美少女の群の中からは、確かに磯の香ではない、甘い、仄かな、乙女のかおりが、彼の鼻腔につきささる――。
彼はもう、ただそのぴちぴちと跳ねる空気に酔ったように立っていたが、漸《ようや》くこの裸体国の中で、たった一人、浴衣に経木帽《きょうぎぼう》とい
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