ったそばまで来ると、
『鷺太郎君。ここでまっていてくれたまえ、私と春生君とが、ゆうべの二人のように草叢《くさむら》の中にはいって、私が消えてしまうから――』
『え――』
 鷺太郎が、呆《あ》ッ気《け》にとられている間《あいだ》に、もう畔柳博士は春生を連れて、漸《ようや》く濃くなって来た夕闇の中を、進んで行った。それは恰度、ゆうべの悪夢の復習のように、そっくりであった。
 二人は一寸立止ると、あの男女のように、小径を草叢の方にとった、と見る間に、もう姿は闇に溶け込んでしまった。
 そして、ぽかんとした鷺太郎が、一二分ばかりも待った時であろうか、跫音がしたと思うと、いきなり後《うしろ》から、ぽんと肩を叩かれた。
『あ、畔柳さん……』
 ギクンと振向くと、そこには、つい今まで白シャツを着ていた畔柳博士が、黒っぽいたて縞《じま》の浴衣《ゆかた》を着て、ニコニコしながら立っていた。
『どうだね鷺太郎君。僕が君の後方《うしろ》に廻ったのを知ってるかい――』
『いいえ、ちっとも気づかなかったですよ』
 鷺太郎はまだ目をぱちくりしていた。
『どうです……』
 春生も、崖を上って来た。
『やあ、大成功さ
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