かしな話であった。而《しか》も、それはこの事件に終止符が打たれてしまってからも、遂《つい》にわからなかったのである――。
×
――軈《やが》て、日が暮れ、このSサナトリウムにも灯《ひ》がともった。
鷺太郎は、この日一日位、焦燥を感じた日はなかった。このあいついで起った美少女殺人事件の下手人が、かつて自分をもペテンにかけた山鹿十介であることを、もう動かすことの出来ぬものであると、確《かた》く信じながらも、最後の一寸した躓《つまず》きのために、ハッキリと断言することが出来ないでいるのだ。
そんなことを考えていると、
『やあ――』
畔柳博士が這入って来た。
『一寸《ちょっと》、面白いものを見せますから一緒に来ませんか』
『何んですか……行くことは行きますが』
『実験ですよ、見て下さい私を――』
そういわれてみると、博士はいつもとは違って白ワイシャツに白の半ズボンを穿《は》いていた。恰度《ちょうど》、あのゆうべみた白服の男と同じ支度《こしらえ》であったのだ。
門を出ると、春生も白ズボンを穿いてまっていた。三人は黙々としてZ海岸の方に急いだ。
間もなく、ゆうべの事件のあ
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