』
春生は椅子を鳴らして、乗出して来た。
鷺太郎は、
(そうそう、春生は探偵小説を愛読していたな――)
と憶《おも》い出《だ》しながら、
『じゃ、こういう訳だ、最初の事件は、君ももうアウトライン位は新聞で知っているだろうけど、あの七月十日の海岸開きの日だ。
Y海岸が河童共《かっぱども》のごった返している最中に、ええと、瑠美子、とかいったな、大井という実業家の長女だ、それが海岸で冷えた体を砂の上で暖めていて、気がついてみると、誰も知らぬ間に、胸に匕首を突刺されていた、という訳なんだ。――不思議なことには、当時、誰もその傍《そば》へはいなかったし、彼女は非常な美人だったから、注目の的になっていたから、これはハッキリいえることだ、又彼女には自殺するような動機も、原因もない。つまり殺されたということになるのだが、それでは一体どうして殺されたのか。
最初に妹がいって見て、どうも様子が変なので、頓狂《とんきょう》な声を出したんだから、そばにいた学生が馳つけて、脈をみると、既に止っている。そしてワーッと集まった野次馬の前で、その俯伏《うつぶせ》になっていたのを起してみると、その今いった匕首
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