しがあったんです』
『ほう、又――』
畔柳博士も、あの海岸開きの日の殺人を思い出したらしい。
『そうなんで、あれと同じ兇器で、同じように美しい少女なんです、殺《や》られたのは――。そこへまた私が通り合せて発見者という訳で、今まで色々訊かれましてね。
――でも、その死顔は実に綺麗だったですねえ、美少女が海岸の雑草の中に折れ朽ちたように寝、胸には匕首がささっているんですが、光線の不足で適当にぼかされて、少しも酷《むごた》らしくないんです。そして、そのつんと鼻の高い横顔を、蛍がぼーっ、ぼーっと蒼白い光りで照すんですが、それがまるで美しい絵を見ているような気がしましたよ』
『ほう、ばかに感心してるね、君のリーベのように綺麗だったかい』
『まさか、ははは』
『ふーん、で君は、それが誰にやられたのか知っているのかい――』
『いいや、知らんよ、警察でさえ、解らんのだもん――でもこの前のと関係があることは、素人にもわかる、というのは、いまいったように兇器が同一種類であり、手口も酷似しているからね、いつも、乳房の下を、心臓までまっすぐに一と突きだ』
『ふーん、君。僕にはじめから詳しく話してくれないか
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