れには、警官も弱ったようだったが、結局、
『それは君、君だけがこの死体を発見して、僕のところへ知らせに来る間《ま》に、それまで草叢の暗がりに隠れていて、逃げてしまったんだろうよ――』
鷺太郎は何か釈然とした気持になれなかったけれど、この場合、それ以外に一寸適当な解決は望めなかった。その釈然と出来なかった原因は、あの男がひどく山鹿十介に似た後姿をもっていた、ということと、その二人連れが、山鹿の別荘から出て来たということであったのは勿論《もちろん》だ。
警官には、
『その二人は、どこかその辺の角から出て来たらしく、散歩の途中、ふと前の方を見ると、あの二人が、何か話しながら、歩いていたのです――』
といって置いたけれど、何故《なぜ》そんなことをいってしまったのか、後になって、どうも思い出せなかった。けれど、それは山鹿を庇《かば》う、というのではなく、寧《むし》ろ何かの場合に、山鹿を打ち前倒《のめ》す為のキャスチングボートとして、ここでむざむざ喋《しゃべ》ってしまうことを惜しんだ気持が、無意識に働いたものらしかった。
さて、漸《ようや》く御用済みとなった二人は、用意よく山鹿の持って来た
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