のつけ根から流れ出た血潮が、あの白地に大胆な赤線を配した洋服の上へ、さっと牡丹《ぼたん》の花を散らしたように、拡がっていた。
 そして、それが、生い繁った雑草の中に寝かされてあり、その夏草の葉蔭にとまった蛍が、無心に息づく度に、ぼーっと蒼白い仄な光りと共に、それが隠し絵のように、浮び出るのであった。
 蛍火が、絶入るばかりに蒼白かったせいか、その美しい貌《かお》だちをもった、まだ十七八の少女の顔が、殊更《ことさら》、抜けるように白く見え、その滑かな額には、汗のような脂《あぶら》が浮き、降りかかった断髪が、べっとりと附《くっ》ついていた。そして、それと対照的に、ついさっき塗られたばかりらしいルージュの深紅と血潮とが、ぼーっと明るむたびに、火のように眼に沁《しみ》るのだ。
 太陽のもとでは、さぞ酷《むごた》らしいであろうその屍体《したい》が、このぼーっ、ぼーっと照しだされる蛍火の下では、どうしたことか却って、夢に描かれたように、ひどく現実離れのした倒錯した美しさを見せるのであった。
 ――鷺太郎は、恐ろしさというよりも、その蛍火の咲く夏草の下に、魂の抜け去った少女の、この世のものでない美し
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