ほう》、入りくんだ海をへだてて、水晶の数珠玉をつらねたように、灯《ひ》の輝いているのが、今、銀座のように雑沓しているであろうY海岸であった。然《しか》し、この人っ子一人見えぬ、灯一つないこの場所では、すでに、闇の中に海もひっそりと寝て、黒繻子《くろじゅす》のような鈍い光沢を放ち、かすかに渚をあらう波が、地球の寝息のように、規則正しく、寄せてはかえしていた。
山鹿とも一人は、そこまで来ると、つと[#「つと」に傍点]立止った。
そして前跼《まえこご》みになって、何か捜しているようだったが、それは、崖を下る小径だったと見えて、軈《やが》て、その二人の白服《しろふく》は、するすると真黒い草叢《くさむら》の中へ消えてしまった。
(おや、どうするんだろう――)
と頸《くび》をかしげた鷺太郎は、
(む、海岸へ下りて、渚づたいに帰ろうというんだな)
と思いなおした。
ダガ、不思議なことには、そう長い時間がかかろうとも見えぬ、崖の草叢《くさむら》に下りて行った二人の姿は、それっきり、鷺太郎の視界から、拭いさられてしまったのだ。
月はなかったけれど、星は降るように乱れ、その仄《ほのか》な光りで
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