の間は相当あったのだが、なにしろ、その二人が、夜目に浮出す白服だったので)何か熱心に話し合いながら、真暗な夜道を、淋しい方へと撰《よ》るように、進んで行った。その路は、そう思わせるほど、暗く淋しかったのだ。この夏の歓楽境《かんらくきょう》K――に、こんな寂《じゃく》とした死んだようなところがあるのか、と思われるほど……、いや、Y海岸が桁《けた》はずれに賑《にぎ》やかな反動として、余計こちらが淋しく感じられるのかも知れないが――。
 そんなことを鷺太郎は考え乍《なが》ら、それでも生垣を舐めるように身を密ませながら追いて行くうち、いつか住宅地も杜絶《とだ》えて、崖の上に出た。そこは、背に西行寺《さいぎょうじ》の裏山が、切立ったような崖になって迫り、わずか一|間《けん》たらずの路をつくると、すぐ又前は二間ばかりのだらだらした草叢《くさむら》をもった崖になって、眼《め》の下の渚に続いていた。つまり、その路は、崖の中腹を削ってつくられた小径《こみち》であった。
 其処《そこ》へ立つと、海面《うなも》から吹渡る潮風が、まともにあたって、真夏の夜だというのに、ウソ寒くさえ感じられた。
 遥か左方《さ
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