その星明りの中に、ところどころの別荘の、干物台が聳《そび》えたち、そこにはまだ取入れられていない色華やかなモダーンな海水着が、ぺたんこ[#「ぺたんこ」に傍点]になって、逆立ちをしたり、横になったり、股《また》をひろげたりして、ぶら下っているのが見え、それが、あたりがシーンと静もりかえっているせいか、昼間の華やかさと対照的に、ひどく遣《や》る瀬《せ》なく思われるのであった。
……やがて、その生垣の路が、一軒の釣具屋の灯に切られ、橋を渡ると、夜目にも黝《くろ》く小高い丘が、山鹿の別荘のあるという松林である。
山鹿の別荘は、すぐ解った。
疎《まばら》に植えられた生垣越しに覗《のぞ》き見ると、それは二階建の洋風造りで、あか抜けのした瀟洒《しょうしゃ》な様子が、一寸《ちょっと》、鷺太郎に舌打ちさせるほどであった。二階にたった一つ、灯が這入《はい》っているほか、シーンとしていた。おそらく山鹿は、海の銀座、Y海岸の方へ、出かけてしまったのであろう――。
そう思って、踵《くびす》をかえそうとした時だ。
そのドアーが、灯もつけずに、ぽっかりと内側へ引開けられた。はっと無意識に生垣へ身を密《ひ
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