りが、頭にうかぶのであった――けれど、それは、あの美しくも酷《むご》たらしい一齣の場面だけであって、その原因とか、解決とかいった方には、その後《ご》報ぜられた新聞記事と同様、まるでブランクといってもよかった。
 然し、いつもそれと一緒に、あの場所で逢った山鹿十介のことを、聯想するのである。
(そうだ、あいつ[#「あいつ」に傍点]の別荘というのを見てやろうかな――)
 そう思いつくと、恰度眼の先に近づいた十字路を左に採った。
 彼は、あの山鹿には相当ひどい目にあっていたし、そして又、叔父の田母沢源助《たもざわげんすけ》からは交際を厳禁されていたのであったけれど、それが却《かえ》って好奇心ともなって、
(家を見るだけ位《ぐらい》ならいいだろう――)
 と自分自身に弁解しながら、それに、あの場所にい合せた唯一の知人ともいう気持から、いつか足を早めて、夜道を歩き続けていた。
 むくむくと生えた生垣《いけがき》のつづいた路は、まるで天井のないトンネルのように暗かったけれど、空には、恰《あた》かも孔《あな》だらけの古ブリキ板を、太陽に翳《かざ》し見たように、妙にチカチカと瞬く星が、一杯にあった。

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