のみで、とても解決の臆測すらも浮ばなかった。
――彼女(翌日の新聞で東京の実業家大井氏の長女瑠美子であることを知った)は、あの浜に寝そべりながら、二三度両手で邪慳《じゃけん》に砂を掻廻《かきまわ》していた、――とすると、それは砂いたずら[#「いたずら」に傍点]ではなくて、既に胸に匕首を受けた苦しみから、夢中で※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》いていたのかも知れない……。
彼は、そう思いあたると、あの断末魔であろう両手の不気味な運動が、生々しく瞼《まぶた》に甦えり、ゾッとしたものを感じた。
(一体、なぜあんな朗らかな美少女が、殺されなければならないのだ――)
それは「他人」の彼に、とても想像も出来なかったことだけれど、それにしても、あの群衆の目前で、いとも易々《やすやす》と、一つの美しき魂を奪去《うばいさ》った「犯人」の手ぎわには、嫉妬に似た憤《おそ》ろしさを覚えるのであった。
三
海岸開きの日が済んで、十日ほどもたったであろうか。恰度《ちょうど》その頃は、学校も休みとなるし、時間的にも東京に近いこのK――町の賑《にぎ》わいは、正に絶頂に達する
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