ようこと》なしに、又沖に眼をやると、恰度今、早打《はやうち》がはじまったところで、
 ポン、ポン、ポン、ドガァーン。
 とはずんだ音が響き、煙の中からぽっかりと浮出した風船人形が、ゆたりゆたりと呆《ほう》けたように空を流れ、浜の子供たちがワーッと歓声をあげ乍《なが》ら、一かたまりになって、それを追かけて行くところであった。
 浜は、この奇怪な殺人事件の起ったのも知らぬ気に、最も張切った年中行事の一つである海岸開きに、溌剌《はつらつ》とわき、万華鏡のように色鮮やかに雑沓していた。
      ×
 あの華やかにも賑わしい「海岸開き」の最中に、突然浜で起った奇怪極まる殺人事件は、その被害者がきわだった美少女であった、ということ以外に、その殺人方法が、また極めて不思議なものであった――ということで、すっかり鷺太郎の心を捕えてしまったのだ。
 彼は、サナトリウムに帰っても、その実見者であった、ということから、好奇にかられた患者や看護婦に、幾度となく、その一部始終を話させられた。
 然《しか》し、いくら繰返し話させられても、ただそれが稀《まれ》に見る不可思議な犯罪だ、ということを裏書し、強調する
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