ょうか、何処からか、素早く……』
『ふーん』
 山鹿は頸《くび》をかしげたが、すぐ、
『駄目駄目。投げつけた匕首が、砂を潜《もぐ》って、俯伏《うつぶせ》になった体の下から、心臓を突上げられる道理がないですよ……、ところで、あの前後に、あの一番近くを通ったのはあなた[#「あなた」に傍点]じゃないですか――、どうもその浴衣《ゆかた》すがたというのは、裸※[#小書き片仮名ン、319−2]坊の中では眼《め》だちますからね――』
『冗、冗談いっちゃいけませんよ、僕が、あの見も知らぬ少女を殺ったというんですか』
 鷺太郎は、この無礼な山鹿に、ひどく憤《いきどお》ろしくなった。
『僕、失敬する――』
 帰ろう、とした時だった。色の褪《さ》めたビーチコートを引っかけた青年団員が飛んで来て、
『すみませんが、この辺にいられた方は暫《しばら》くお立ちにならないで下さい』
 と、引止められた。
(ちぇっ!)
 と舌打ちしながら、山鹿の横顔を偸見《ぬすみみ》ると、彼は相変らずにやにやと薄く笑いながらわざと外《そ》っぽを向いていた。
(まあいい、「サフラン」でアリバイをたててくれるだろう――)
 彼は仕様事《し
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