ょうか、何処からか、素早く……』
『ふーん』
山鹿は頸《くび》をかしげたが、すぐ、
『駄目駄目。投げつけた匕首が、砂を潜《もぐ》って、俯伏《うつぶせ》になった体の下から、心臓を突上げられる道理がないですよ……、ところで、あの前後に、あの一番近くを通ったのはあなた[#「あなた」に傍点]じゃないですか――、どうもその浴衣《ゆかた》すがたというのは、裸※[#小書き片仮名ン、319−2]坊の中では眼《め》だちますからね――』
『冗、冗談いっちゃいけませんよ、僕が、あの見も知らぬ少女を殺ったというんですか』
鷺太郎は、この無礼な山鹿に、ひどく憤《いきどお》ろしくなった。
『僕、失敬する――』
帰ろう、とした時だった。色の褪《さ》めたビーチコートを引っかけた青年団員が飛んで来て、
『すみませんが、この辺にいられた方は暫《しばら》くお立ちにならないで下さい』
と、引止められた。
(ちぇっ!)
と舌打ちしながら、山鹿の横顔を偸見《ぬすみみ》ると、彼は相変らずにやにやと薄く笑いながらわざと外《そ》っぽを向いていた。
(まあいい、「サフラン」でアリバイをたててくれるだろう――)
彼は仕様事《し
前へ
次へ
全62ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング