のである。
 彼女は、猶《なお》もその無意味な砂《すな》いたずら[#「いたずら」に傍点]を二三度くり返したようであったが、それにも倦《あき》たのか、顔にかかった砂を払おうともせず、ぐったりと「干物」のようにのびていた。尤《もっと》も、干物にしては、余りに艶やかに美しかったけれど――。
 恰度《ちょうど》鷺太郎が、その横まで通りかかって行った時だ。テントの中から、妹らしい少女が、熱い砂の上を、螽※[#「虫+斯」、第3水準1−91−65]《ばった》のように跳ねながらやって来て、
『お姉さま――どお、まだ寒いの?』
『…………』
『ねえ、あんまり急に照らされちゃ毒よ――』
『…………』
 それでも、彼女は返事をしなかった。
『ええ、お姉さまったら……』
 そういって、抱き起そうとした時だ。
『アッ!』
 と一声、のけぞるような、驚ろきの声を上げると、
『芳《よ》っちゃん芳っちゃん、来てよ、へんだわ、へんだわお姉さまが――』
 と、テントに残っていたお友達に叫んだ。
 鷺太郎は、その突調子もない呼声《よびごえ》に、思わず来過ぎたその少女の方を振かえって見ると、
『おやっ……』
 彼も低く呟《つ
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