ぶや》いた。
つい、先《さ》っきまで、あんなに血色のいい、明るかった美少女の顔が、いつの間にか、その顔を埋《うず》めた砂のように、鈍く蒼《あお》ざめているのだ、その上、眼は半眼にされて、白眼が不気味に光り、頬の色はすき透ったように、血の気がなかった。
(どうしたんだろう――)
一寸《ちょっと》、立止っていると、呼ばれた芳《よ》っちゃんという少女と一緒に、もうあたりの学生が、
『どうかしたんですか――』
と寄って来た。
『あっ、脈がない、死んでる――』
手を握った一人の学生が、頓狂《とんきょう》な声を上げた。
『えッ』
妹と芳っちゃんの顔が、さっと変った。
『どした、どした』
物見高い浜の群衆が、もう蟻のように蝟《あつ》まって来た。
鷺太郎も、引つけられるように、その人の群にまざって覗《のぞ》きみると、早くも馳《かけ》つけたらしいあの山鹿十介が、その脈を見ていた学生と一緒に、手馴《てな》れた様子で、抱き起していた。
『やっ、これは――』
遉《さすが》の山鹿十介も、ビックリしたような声を上げた。
『お――』
すでに、輪になった海水着の群衆も、ハッと一歩あとに引いたようだ。
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