小川鳥子といえば、今売出しの踊子じゃないか……」
洵吉も、ちょっと興味をひかれたので、差出された乾版を覗いてみたが、余り乾版というものを見馴れない彼にはただ乳白色のバックの中に、真黒で眼のはた[#「はた」に傍点]や、口のまわりばかりの白い、黒人のような少女が、全裸《まっぱだか》のまま無作法な姿をしているだけのものであった。
「君、この鳥子が、珍らしいさめ[#「さめ」に傍点]肌なんだぜ、すごいぞ……」
水木は嬉しそうに、口の中で、そんな事を呟くと、もう一遍、その乾版を翳見《かざしみ》てから
「今日はもう少し現像するのがあるんだ、一緒に来てみたまえ……」
そういうと、水木は今出て来たドアーの方へ、洵吉を連れてゆくのだった。
三
その部屋は、小さな暗室になっていて、周囲《まわり》には真黒い厚ぼったいカーテンが重そうにゆるやかな襞《ひだ》をうって垂下っている中に、小さい赤燈が、ぼんやりと、いまにも絶入りそうな弱い光の輪を描いていた。
「中学時代の友だちっていうものは懐しいね、全く久しぶりだからなあ、あの浅草で逢ったなんて、実に偶然なチャンスだ」
水木は、如何にも懐し
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