魔像
蘭郁二郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)当《あて》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)寺田|洵吉《じゅんきち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+息」、130−13]《ほっ》
−−

       一

 寺田|洵吉《じゅんきち》は今日も、朝から方々職を探してみたが、何処にもないとわかると、もう毎度のことだったが、やっぱり、又新たな失望を味って、当《あて》もなく歩いている中、知らず知らずに浅草公園に出ているのであった。
 ――これは寺田の「淋しい日課」だった。郷里《くに》で除隊されると、もう田舎で暮すのがバカバカしくてならず、色々考えた末、東京のタッタ一人の叔父を頼って、家を飛出しては来たものの、叔父の生活とて、彼を遊ばせておくほどの余裕はなかった。そして、彼の淋しい日課は始まったのだ。
 寺田は、溜息と一緒に公園へ出ると、なかば習慣的に瓢箪《ひょうたん》池に突出した藤棚の下に行き、何処かでメタン瓦斯《ガス》の発
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