生《わく》ような、陰惨な音を聴きながらぼんやりとして、あくどい色をした各常設館の広告旗が、五彩の暴風雨《あらし》のように、やけにヒステルカルに、はたはたと乱れるのを見詰めていた。
(相変らず凄い人出だなア――)
 そう我知らず呟いた時、フト思い出したのは、此処で二三日前、偶然に行逢った中学時代の同級生|水木《みずき》のことだった。
 それと同時に、
(あの水木のところへ行けば、何かツテがあるかも知れない)
 と、思いつくと、それを今迄、忘れていたのが、大損をしたような気がし、周章《あわて》てよれよれになった一張羅の洋服のあちこちのポケットを掻き廻してみた。
 あの時は全く偶然であったし、それに、裕福そうな水木の姿にいかにも自分のみじめ[#「みじめ」に傍点]な生活を見透されそうな気がして差出された名刺を、ろく[#「ろく」に傍点]に見もせずにポケットに突込み
(是非遊びに来てくれたまえ――)
 といった水木の声を、背中に聴いて、遁《に》げるように別れてしまったのだが……。
 でも、幸《さいわい》その名刺を失いもせず、くしゃくしゃ[#「くしゃくしゃ」に傍点]になってはいたが、思わぬポケットの
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