おい、これ誰だか知ってるかい……)
 ともったい[#「もったい」に傍点]振って見せびらかし、「通」自慢の級友たちが、頭をひねっているのを見て、手をうって喜んでいた水木の姿。又、それを洵吉自身も一寸覗き込んで、その余りに整った、創造された美人の顔に、思わずゾッとして冷めたさを感じたことを、今、アリアリと偲い浮べるのであった――。
       ×
 そんなことを、ぼんやりと考えていると、
「どうもお待ち遠……」
 といいながら、水木が、この部屋の向側にあったドアーを開け、手にはまだ水のたれている乾版をもって出て来た。
「この間は失敬、随分待たしちゃったね、写真はやりかかると、手がはなせないんでね――何をぽかんとしてんだい」
「うん、いや、何でもないさ――」洵吉は、笑ってみようとしたが、どうも頬がこわばって[#「こわばって」に傍点]いるのに気がついた。だが、水木はそんなことには気がつかなかったようで、手に持った乾版を覗いてみると、寺田の眼の前につき出しながら、
「どうだい、素晴らしいだろう――これがあの浅草の小川鳥子なんだぜ。やっと承知させて裸のやつを今日撮って来たんだ」
「小川……」

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