憶では、もうその時分から「水木」と「写真」というものとは不可分のものであった。
水木は家がよかった為か、田舎の中学生としては贅沢な写真機を持っていた。
そして初めの中は同級生なんかを撮って喜んでいたのだがそれにも倦きると、今度は自分で逆立《さかだち》をして写してみたり(可笑しなことには、大苦しみをして逆立で撮った写真も、出来上ってみれば普通の写真だった)或は又、毛虫をカビネ一杯位に大きく写して、そのむやむや[#「むやむや」に傍点]とした、毛むくじゃらな、醜悪な姿を見せて、級友達の気味悪がるのを見て喜んだりしていた幼ない美少年であった彼の姿……。
しかし、そんな思い出の中で、タッタ一つ、寺田自身も、
(こいつは傑作だ!)
と思ったのがあった。それは、水木が町の絵葉書屋から、色々な女優のプロマイドを買集めて来て、それを切抜いたり、重ね合せり、複写したりして、口は東活の冬島京子、眼は東邦プロの春沢美子、耳は……、というように多くの女優の顔の中から、特徴のある部分だけを採って、それで一枚の美人写真を、頗る巧妙に造上げたものだった。
水木は、それをわざわざ教科書の間に忍ばせて来て、
(
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