そうに、そういって、ドアーをばたん[#「ばたん」に傍点]と閉めてから、赤燈のかげで、水を測っては、白い器の中に、流《ながし》始めた。
洵吉は、その器用に動く、綺麗な指先を見つめながら
「うん、全く久しぶりだった。……君は何故こう写真が好きなんだろう、学校時代も、有名な写真気違いだったな……」
水木は白い器の中に卵色の乾版を入れると、ゆらゆらとゆらし始めていたが、この寺田の言葉を聞くと、流石に一寸苦笑したようだった。でも、直ぐ真面目な顔になって、
「君、僕はこの気分[#「気分」に傍点]が、たまらなく好きなんだよ、誰になんといわれようと、そんなことは、平気なもんさ、見たまえこのなんにも見えなかった乾版から、景色でも、顔でも……ソラこういう風に、影のように出てくるだろう、僕にはこの気持がぞくぞくするほど、たまらなく嬉しいんだ。
このなんにも見えない乾版から、今度は何が出て来るだろう、と思う時の軽い(そして快よい)興奮は、君にも充分わかってもらえると思うよ。
遠《と》うに忘れちまった顔でも、皺一本違わずに、恐ろしいほど正確に、現われてくるじゃないか……写真は五官を超越した神秘が、美しく
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