の、健康な娘の死体から、何時か赤黒い腐液が、じくじくと滲みだし、表皮がべろっと剥げると、そこには盛上った蛆虫が……。藍紫色に腐った臓器や肉塊が、骨からずるり[#「ずるり」に傍点]と滑って、硝子箱の底にどろどろと澱んだ腐汁になってしまう……。むき出された骨の上を、列をなして舐め廻る蛆虫の蠢めき、又、それに真赤な唇をぺろぺろ舐めながら、一生懸命ピントを合せている水木の姿……。
洵吉は、そんな嘔吐を催すような想像に、彼女の死体にはまだ死後硬直も来ず、その上密閉された硝子箱の中に入れられていることを、よく承知しながらも、思わずムッと鼻口を圧迫されるような臭気を感じて、もうこれ以上、どうにもこの部屋にいられなくなってしまった。
彼は突飛ばされるように、屋根裏のスタジオから駈下りると下にきてはじめて安心して空気が吸えるような気がした。
少しして水木が、平気な顔をして、いや寧ろ希望に輝いた顔色を見せながら、下りて来た。
そしてまだ洵吉が、椅子に腰かけた儘、息をきらしているのを、嗤《わら》うように見ていたが、それでも友達甲斐に、コップに水を汲んできてくれた。
「寺田君、バカに驚ろいたようだね、
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