……体は頑丈な割に、意気地がないね」
 彼にそういわれると、洵吉は一寸照れかくしに、汲んでくれた水を、がぶがぶ飲んで、やっと少し落着くことが出来た。
「水木君、一体、腐って行く女なんか撮ってどうするんだい……」
(俺はもう、御免蒙るよ……)
 洵吉は、少し言葉を強めて、訊きかえした。
「どうするって……、何時か君に話したろう、僕の一生一代の大願目の写真だ、題は『腐りゆくアダムとイヴ』っていうんだ、どうだ、ステキな題だろう……」
「アダムとイヴ?」
「腐りゆくアダムとイヴ、だ」
「イヴはいいけれども、アダムはこれから見つけるのかい」
(又人殺しを重ねようというのか!)
 洵吉は、なんともいえぬ、いやあな気持に襲われて来た。
 だが、水木は、平然として
「アダムはもう出来ているよ、アダムはずっ[#「ずっ」に傍点]と前から決ってるんだ。イヴが見つかるまで僕の手伝をして貰った人だよ……」
「えッ」
(ソレは、それは、このおれ[#「おれ」に傍点]ではないか!)
「ふ、ふ、もう顔色が変ってきたな。僕は浅草で逢った時から君の『甲種合格』の体に惚れていたんだ……どうだい気分は、さっきの水は味がヘンだっ
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