六
それから洵吉は、水木のいう儘に手伝ってその投出された行商娘の、襦袢まで剥ぎとってしまうと、スタジオの隣の物置にあった、大きな硝子箱(寺田は、前からこんなものがあるのは知っていたが、何に使うのか見当もつかなかった)を選び出して、彼女の死を、まるでこわれ[#「こわれ」に傍点]物でも扱うように、そっとその中に寝かした。
そして蓋の硝子を閉め、縁《へり》をパテで詰めてしまうと、もう一遍、つくづくと彼女の、赤裸な姿体を見直してみた。
硝子の箱の中に、のびのびと寝かされた彼女の様子は、まるで人魚の氷漬のように見事なものであった。ふさふさとした黒髪は、枕元に匐《はい》廻り、まだ色褪せぬ唇が、薄く開いて白い歯並の覗いているのが、如何にも楽しい夢をみているように思わせ、体全体の艶《つや》を含んだ小麦色の皮膚は、むっちり[#「むっちり」に傍点]として弾々たる健康を、惜気もなく振撒いているのだった。
洵吉は、何故とはなく、ホッと息を漏らして、水木の方を振返ってみた。水木は彼の溜息をきいたのか、にやにやと笑いながら、
「どうだい、素晴らしいだろう、僕もはじめ(今日は――)と這入って来た時は、思
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