んでしまった。
だが、洵吉にも、すぐそのわけ[#「わけ」に傍点]が解った。水木が、あわてて制したのも、無理ではなかった、水木の足元には薄い襦袢《じゅばん》一枚の若い、健康そうな娘が、のびのびと寝ているではないか……。
洵吉は、一寸、くすぐったい[#「くすぐったい」に傍点]気持になって、忍び足に水木の傍に寄ると、そっと、彼の肩をつついた。
「誰だい、君に女の友達が来ているとはしらなかった、……だけど、よく寝てるじゃないか」
「はッ、はッ、はッ」
水木はいきなり[#「いきなり」に傍点]思いきった笑声で、部屋の空気を顫わせた。それは如何にも狂人のように不規則な、馬鹿高い哄笑だったので、洵吉は、思わずギクンとしながら、この女が眼を覚しはしないか、と心配したほどだった。
「寺田君、ヘンに誤解するなよ、この女は今日、タッタ今、逢ったばかりなんだぜ。……よく見ろよ、死んでるんだ――」
洵吉は、その思いもかけぬ言葉と、緊張に歪んだ水木の奇怪な容貌に押されて、も少しで買って来たばかりの乾版を、取り落してしまうところだった。
「驚かなくてもいいよ。この女は行商の女さ、……生憎《あいにく》君がいなか
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