瞬間、あの採光用のため、ガラス張りになった屋根の半面が、きらり[#「きらり」に傍点]と光った。
(変ったことがなければいいが……)
 ガラスの光るのは、ちょいちょい見るのだが、今日に限って洵吉は、フトそんな気持に襲われた。尚も足を早めて、門をくぐり、玄関のドアーを引いた途端、
「おやっ……」
 と、到頭呟いてしまった。矢張、彼の予感通り、留守中何か起ったに違いないのだ。
 玄関の石畳には、水木の生活とは凡そ不釣合な地下足袋が投出されるように、脱がれて、黄金《きん》色のコハゼが、薄暗い玄関の中に、ずるそうに並んで光っていた。
 洵吉は急いで下駄をぬぐと、
「水木君、水木君……」
 と大きな声で呼びながら、家の中をうろうろと捜してみたが、その呼声は、あたりの壁にシーンと吸込まれて、水木の返事はなかった。
 彼は、方々捜して、屋根裏(そこは、天井との間が広くとってあって、あの屋根のガラス張りになっているスタジオだった)のドアーを、ぐい[#「ぐい」に傍点]と開けて
(水……)
 水木の名を呼ぼうとして、首を突っ込んだ、と同時に、あわてて、彼を制する水木の姿が眼に這入ったので、危うく、その声を呑
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