で、水木の顔を覗込んだ。だが水木は、如何にも考《かんがえ》深そうに、
「いやすぐは出来ないよ。僕には前から考えている一生一代の大願目があるんだ、それを撮ったら、展覧会をやろう……」
「何んだい、それは」
「一寸、今はいえないんだ……けれど、それを撮りたいばかりに、今迄君に手伝って貰ったようなもんだよ」
 そんなことをいわれると洵吉は余計訊きたくてたまらなかった。
「一体何を撮るんだい、無論僕はどんなことでも手伝うけど」
 しかし、水木は、もう返事もしないで、写真の整理に夢中になっていた。
 洵吉も、水木の横顔にひくひくと動く、(蒼白い、重大な決意)に押されて、口を噤《つぐ》んでしまった。

       五

 二三日して、丁度乾版がすっかり切れてしまったので、洵吉は水木に頼まれて、駅の近くの写真材料店まで使いに出た。
 そして、色々な乾版を買込んで、帰途についたが、なんだか水木の家で、変ったことが起ったような予感がしてならなかった。彼は、何時とはなく足を早めていた。
 黒い柔かい土を、足早に踏んで、水木の家が、視界にぽっかり[#「ぽっかり」に傍点]浮ぶところまで来、そして、道を曲った
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