吉は本当に死んでしまうところだった――けれどその代り、この写真を焼付けて見ると、正《まさ》に死に墜ちる瞬間の、物凄い形相が、画面からぞわぞわと滲出《にじみで》て、思わずゾッとしたものが、背筋を駛《はし》るほどの出来栄えだった。
「すごいぞ、大成功……」
 そういいながら、水木と洵吉とは、まだ濡れている写真を奪合うようにして覗きみては、手を拍《う》って喜び、部屋の中を踊廻っていた。
 こうした異様な写真を、彼等二人は次から次へと、倦かずに作って、もう今ではその数も、非常なものとなって来た。
 或る日、水木はそれらを整理しながら、こんなことをいうのだった。
「ねえ、寺田君、こんな素晴らしい写真を、僕たち二人しか知らないというのは惜しいな。一度何処かで、とても公開することは出来ないだろうけれど……会員組織ででもいいから、展覧会をやってみたいね、きっと驚くぜ、中には卒倒する奴が出るかも知れないぜ――」
 無論、洵吉も、大賛成だった。
(中には卒倒する奴が出るかも知れないぜ――)
 その言葉が、彼の胸の底の虚栄心をぶるぶる顫わすのだ。
「是非やろう。何時がいいんだ――」
 彼はもう急《せき》込ん
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