部が使われたり、甚《はなはだ》しいのになると、その儘《まま》、又はテンポだけ違えて新しいもののように、使われたりしてしまうのです。どうですお解りでしょう、それで僕は、すべての場合のメロディを、総《すべ》ての場合のテンポで著作権をとってやろうと考えたんですよ……、だから僕はすべての流行歌を分析し演繹し、帰納しようとかかっているんです』
 男は猶《なお》も熱して、その奇妙な話を続けた。
『あなたは「都々逸《どどいつ》」が採譜《さいふ》の出来ないことを知っていられますか、謡曲も採譜が出来ません、あれは耳から耳へ伝わっている曲で、同じ「ア」という音《おん》を引伸ばしながら、微妙な音の高低があるんです。ですから「都々逸」をピアノで弾くとしてご覧なさい、実におかしなものですよ、そう思って聴けばそうも聞える、といった程度のものしか再現出来ないのです。これはピアノには半音しかないということが、その原因の第一だと思われます、だから私はその微妙なメロディを採りいれる為に、四分音を弾けるピアノを特に作ったんですよ……』
 彼はそういい乍《なが》ら、つと立ってピアノの鍵盤を開けた。なるほどそこには白いキーと、
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