腐った蜉蝣
蘭郁二郎

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)黄昏《たそがれ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)讃美|渇仰《かつごう》される

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》
−−

      一

 黄昏《たそがれ》――その、ほのぼのとした夕靄《ゆうもや》が、地肌からわき騰《のぼ》って来る時間になると、私は何かしら凝乎《じっ》としてはいられなくなるのであった。
 殊《こと》にその日が、カラリと晴れた明るい日であったならば猶更《なおさら》のこと、恋猫のように気がせかせかとして、とても家の中に籠《こも》ってなぞいることは出来なかった。さも、そのあたりに昼の名残《なごり》が落ちているような、そして、それを捜しまわるように、ただ訳もなく家を出、あてどない道を歩いて行くのだ。
 ――その当時、私は太平洋の海岸線に沿った、小さな町にいた。自分から、あの華やかな「東京」を見棄《みすて》てこんな
次へ
全38ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング