とサッと顔色をかえた。しかし、しばらくして首を振りながら、
『それは君の想像にまかせる……だが、君自身は輸血をしようとは義理にもいわなかったじゃないか……。ネネは僕に感謝していたぞ。そして、木島とはただの友人にしか過ぎない、私はただあの人の地位を利用しようとして、誘いを断り切れず、ドライヴに来たのだけれど、木島が片手で運転しながら片手で私の肩を抱きすくめたので、それを振り払った途端、カーヴを切り損《そこな》ってあんなことになってしまったのです、と涙を流して言っていたんだ。そして、この来月末にある公演の主役をすましたら屹度《きっと》僕のところへ帰って来るというのだ。――これも、君が信じようと信じまいと、どちらでもいいのだがね、兎《と》も角《かく》、僕も今度は病気を癒《なお》そうと思う……』
彼は、ゆるやかに口笛を吹くと、やがて、空中で、いきなりピアノを弾くように両手を踊らせ、あはははは、と笑った。
『信じられぬ……』
私は、反撥的にそう呟《つぶや》いた、しかしその語尾は淡く消えてしまった。
私も亦《また》、彼にとっては敵の一人であったのだ。この背負投げは、事実であるかも知れぬ……。
前へ
次へ
全38ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング