そして、時々、蒼白いカサカサな皮膚をした若い男が、懐手《ふところで》をしながら、巧みに、ついついと角を曲って行く姿が、ふと[#「ふと」に傍点]蝙蝠《こうもり》のように錯覚されるような四辺《あたり》であった。
私は、長いこと、矢張り懐手をしてその迷路のような一廓の中を、彷徨《さまよ》い歩いた、胡粉《ごふん》を塗ったような女共の顔が、果物屋の店先きのような匂いを持って曝《さら》されていた。
然し、竟《つ》いに、春日の姿も、花子という女の姿も発見することは出来なかった。
それは、あとから考えれば、当り前であった、その噂が拡まる頃には、もう春日はその女と、太郎岬の一軒家で同棲していた、というのだから……。
遅蒔《おそまき》に、それを知った私は、いくらかの躊躇《ちゅうちょ》は感じたが、そしてその口実にあれこれとさんざ迷ったのだが、遂に好奇心の力に打まかされて訪問を決心したのは、それから又、一週間も経ってからであった。
あの崖の小径を登り切って見ると、彼は、その女と暮しながらも、猶《なお》、仕出屋の食事をつづけているらしく、勝手口の外には喰いちらかされた二人分の食器と、やっと暖かくなって
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