る人が沢山にいるそうですが、どうもうまく行かんそうです、それはゴムを分析して、ゴムを形成している元素に分析して、斯《こ》うでなければならぬ、という十分の化学式を発見《みつけ》ます。それは既に発見られたのです、だから、その化学式を満足させるようなものを合成すればいい訳ですが、ところが化学式には「弾力」というものが表わせません、ゴムの生命ともいっていい弾力が表わせないんです、それが合成して目出度《めでた》く出来上ったものは、一見ゴムみたいなものでありながら、弾力のない、くだらぬものでしかなかった、という、まあそんな訳ですが、失礼ですが、あなたの場合、音譜に「音色《ねいろ》」というものが表わせるでしょうか「音色」という弾力を、マキシマムに発揮しなければ、その流行歌は人の心を、芯底から搏《う》つものとは思われませんね。
また、流行歌に限らず、私は「流行」というものにはひどい疑惑をもっているんです、流行というのは、恰度《ちょうど》恋愛みたいなもので、その時は最上無二のように思われるんですが、さて、あとから見てどうでしょう……』
『君』
その男は、激しく私の言葉を遮った。
『君、しかし誰が僕の
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