れば、結局全部が零《ゼロ》になってしまって、一向に反応がない、ということになりますからネ」
「しかし……」
 私がいいかけた時に、又ドアーが開いた。
 現われた彼女は、さっきと同じように四ツ足半の足巾でドアーからのテーブルに来、左手でグラスを置いて、又機械のように正確な足巾でドアーの奥に消えて行った。
「おや? 彼女は左ぎっちょ[#「ぎっちょ」に傍点]ですかね」
 私が呟くのを聞いた鷲尾老人は、何を思ったのか
「えらい! 君はなかなか見所があるですぞ――」
 私がびっくりしているのも構わずに
「うむ、なかなか観察が鋭い、君ならば或いはわし[#「わし」に傍点]のいうことがわかってくれるかも知れんナ――どうじゃ、わし[#「わし」に傍点]の研究室に来て見ないかね」
「いや――、しかし……」
「遠慮は無用。君はわし[#「わし」に傍点]の人物試験にパスしたんじゃ……だからいうが、わしはこのバーの主人なんじゃよ」
 私は、あなた[#「あなた」に傍点]から君に変り、そうじゃ[#「じゃ」に傍点]、そうじゃ[#「じゃ」に傍点]という老人臭い口調に変り、そして又、このバーの主人なんじゃと名乗られたことに、
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