いささか面喰《めんくら》ったかたちであったのだが、
「なアに、研究室といったって、この奥じゃよ、それに、助手としては、あの木美子一人きりじゃからナ、遠慮することはないよ」
という説明を聞かされて、行って見るだけでも行って見ようか、という気が起って来た。それは老人への好奇心ばかりではなく、あの木美子という美少女が助手である、ということに魅《ひ》かされたのであることが、もっと大きな原因でもあった。
「――そうか、ではすぐ行って見るかの」
そういうと鷲尾老人は、先きにたってドアーを潜った。年齢《とし》は幾つ位かわからなかったけれど、そんな言葉使いをしたり、こうして先に立って歩いているのを見ると、少くとも六十は越しているらしかった。(木美子というのは十八九に見えるけど、この老人の娘かな……それにしては余り似ていないようだが……)
などと考えながら、私は従って行った。ドアーの奥には小さい棚があって、洋酒の壜が申訳ばかりに七八本並んでいるきりで、彼女の姿はなかった。とにかくこの棚は、一寸した酒呑みの台所にも劣る心細いバーである。
私は、急に酔いが覚めるような、肌寒さを襟に感じた。そういえば
前へ
次へ
全26ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング