この細い道は、地下室からなおも下りになっていて、やがて素人が削ったような無細工な階段を下りると、その終るところの横に、煉瓦を抜取った口が開いていた。
「妙なところにあるんですねえ」
 私は、少しばかり自分の好奇心を後悔しはじめて来たが、老人は一向に平気で
「なアに君、これは震災の時に出来た断層なんじゃよ、そこを一寸手入れしただけでネ……なかなか便利じゃ、第一他人に見られる心配はなし、実験用の電気はロハときとるからの」
「ロハ――?」
「ふッふッふ」
 鷲尾老人は、その銀髪の顔に含み笑いを見せて、傍らを指さした。見ると地中に埋められてある筈の地下ケーブルが一部分露出していてそこから電線がこの所謂研究室に引込まれているのであった。
 私は恐る恐るその研究室を覗いて見た。しかし、残念なことには、そこにも木美子の姿はなかった。そして名も知らない電気機械の類がその六畳ばかりの狭っくるしい部屋一杯に置かれてあるきりであった。ただ、その部屋の周囲には薄緑色のカーテンが張りめぐらされてあることだけが、どうやら彼女の趣向らしく思われる。もしこのカーテンがなかったならば、この研究室は、まるで土窖《あなぐら
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