りませんか、――例えばですねえ、電気って奴は、陰と陽とがあって、お互いに吸引する。が、同性は反撥する――ネ、一寸、似てるじゃありませんか。一緒になるまでは障害物を乗越えて、火花を散らしてまでも、という大変な力を出しながら、さて放電《ディスチャージ》してしまうと、淡々《たんたん》水の如く無に還るという――、面白いじゃありませんか」
鷲尾老人は、なかなかに能弁であった。時たまグラスを口に運ぶだけで、この奇妙な恋愛電気学を、ながながと述べはじめたのである。
「あなたが、恋をしたとしますよ、するとですね、彼女があなたを如何に思っているかというのが、気懸《きがか》りでしょう。そして、よりよく想ってもらいたい、と思いませんか、それが人情ですね、しからば――ですネ、一体どうしたらいいか、どうしたならば彼女の気持を、あなたに対して増大《エンラージ》させることが出来るか?」
それは教師が、起立を命じた生徒に、ものを問い糺《ただ》すような、口調であった。
私は弱って
「さあ――」
と、口籠《くちごも》っていると
「わからんでしょう――。それは人間の方から考えるから解らんのですよ、さっきいったように
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