。
あんなにも信頼していた数字、日附に、無慙《むざん》にも裏切られた鷲尾老人が、遂に卒倒してしまったのだ。
私も最早日附どころではなかった。木美子と一緒に水をのませたり、医者を迎えに走ったり、すっかり慌てふためいてしまったのである。
× ×
鷲尾老人は、現在東京の西部にあるA精神病院に収容されている。
「つい一ト月ばかり前までは、ほんとにいい叔父様だったのに……」
木美子が、淋しげに私に囁くのである。
「叔父様は、あのビルの管理人を、もうずいぶん長いことしていたのです。それがつい一ト月ほど前に、下水道のなかの地割れの地下線が出ているのを見つけて、危いから片づけようとして触ったもんですから感電して刎《は》ね飛ばされ、大変な騒ぎをして――、その時頭の打どころが悪かったせいか、それ以来すっかり電気気違いになってしまったの、そして木美子の神経は白金《プラチナ》で出来ているとか、(震災で両親を亡くしてから、ずうっとあの叔父様のお世話になっていたのは本当なんですけど)だからこれからは右手と右足とを一緒に出すようにして歩け、とか、こんどはこの部屋をバーにして助手を
前へ
次へ
全26ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング