に傍点]だがね、見ると輪のところへ、ひらひらしたもんがくっ[#「くっ」に傍点]附いている、さわ[#「さわ」に傍点]ったが落ちねえ、ぐっと引っ張ったら、べたっ[#「べたっ」に傍点]と手についたんだ『わッ!』という騒ぎよ、何んだと思う、女の頭の皮さ、黒い長い髪が縺《もつ》れてひらひらしてたんだぜ、それが手に吸いついて、髪が指にからまっちまったもんだから、奴《やっこ》さん驚いたの、驚かねェの、青くなって、それっきり罷《よ》しちまった。その後釜《あとがま》が、源さんという訳よ』
 倉さんは、如何にも話好きらしく、長々と話し出したが、源吉には、もうそれ以上聴く元気はなかった。
(俺《おれ》も機関手なんて罷《や》めようか――)
 詰所を出ると、前の草原《くさはら》に、ごろんと寝た儘《まま》、喘《あえ》ぐように、考え続けた。
(罷めなければ、二日に一遍は、あそ[#「あそ」に傍点]こを通らなければならない――)
 ここで源吉が、潔よく罷めて仕舞えば、あの恐ろしい、轢殺の魅力なんかに、囚《とら》われずに済んだのだろうが、彼の不幸な運命《ほし》はそうはさせなかった。
 ――彼は何時《いつ》の間《ま》にか、
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