ろう』
 源吉は、胸の中を、見透かされたような、気味悪さを覚えて、ガクッと頷《うなず》いた。
『あそこは、ひどいカーヴだ、おまけに山の出ッ鼻が、邪魔してるんで、まるで見通しが利かねェ、なんでも始めはトンネルを掘って真ッ直ぐにするつもりだったってェが、山が砂岩ばかりで仕方なしにあんなことになったそうだがね、魔のカーヴだ』
『魔のカーヴ――』
 源吉は、頭の中で、もやもやしていた恐怖の雲が、スーッと塊《かた》まりになったのを意識した。『やっぱり』という意味が、飲み込めた。
『魔のカーヴだ。よくある魔の踏切と同じ奴よ。若い娘がよく死ぬんだ。娘ばかりじゃねェ、失恋《ふら》れた若い男、借金《かり》で首の廻らねェ、百姓|爺《おやじ》の首が、ゴロンと転がったり……。
 おか[#「おか」に傍点]しなもんで、一人が死ぬと『吾《わ》れも、吾れも』とそこで死にたがるもんでな、轢くこっちはいい迷惑よ、嫌な思いをしなけりゃならねェし。
 おまけ[#「おまけ」に傍点]に坂で滑っているから、『あッ!』と思ったって間に合わねェ、知らねェで運転して車庫の検査で、めっけたって奴もあるぜ源さんの来る前にいたもん[#「もん」
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