鉄路
蘭郁二郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)澱《よど》んだ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十|輛《りょう》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)せり[#「せり」に傍点]出すように
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一
下り一〇五列車は、黒く澱《よど》んだ夜の空気を引裂き、眠った風景を地軸から揺り動かして、驀進《ばくしん》して行った。
『いやな晩じゃねェか……』
(変ったことでも起らなければいいが)
というのを口の中で噛潰《かみつぶ》した、機関手の源吉《げんきち》は、誰にいうともなく、あたりを見廻した。
『うん……』
助手の久吉《きゅうきち》も、懶気《ものうげ》に、さっきから、ひくひくと動く気圧計の、油じみた硝子管《がらすかん》を見詰めながら、咽喉《のど》を鳴らした。
夜汽車は、単調な響《ひびき》に乗って、滑っている。
源吉は、もう今の呟《つぶや》きを忘れたように、右手でブレーキバルブを握ったまま、半身を乗出すように虚黒《ここく》な前方を、注視していた。
時々、ヘッドライトに照された羽虫《はむし》の群が
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